東京地方裁判所 昭和43年(ワ)6111号 判決 1969年6月20日
原告(反訴被告)
東洋化工機株式会社
被告(反訴原告)
有限会社麹町運送
主文
一、被告(反訴原告)は原告(反訴被告)に対し金七六、八二〇円およびこれに対する昭和四三年五月二四日以降支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。
二、原告(反訴被告)は被告(反訴原告)に対し金三五三、七五七円の支払いをせよ。
三、原告(反訴被告)の被告(反訴原告)に対するその余の本訴請求および被告(反訴原告)の原告(反訴被告)に対する反訴請求を棄却する。
四、訴訟費用は本訴反訴を通じこれを二分し、その一を原告(反訴被告)の、その余を被告(反訴原告)の各負担とする。
五、この判決は、右第一、二項に限り、かりに執行することができる。
事実
第一、請求の趣旨
(本訴)
一、被告(反訴原告、以下単に被告という)は原告(反訴被告、以下単に原告という)に対し一九二、〇五〇円およびこれに対する昭和四三年五月二四日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
二、訴訟費用は被告の負担とする。
との判決および仮執行の宣言を求める。
(反訴)
一、原告は被告に対し七〇九、五九六円を支払え。
二、訴訟費用は原告の負担とする。
との判決および仮執行の宣言を求める。
第二、請求の趣旨に対する答弁
(本訴)
一、原告の請求を棄却する。
との判決を求める。
(反訴)
一、被告の請求を棄却する。
二、訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。
第三、請求の原因
(本訴)
一、(事故の発生)
原告は、次の交通事故によつてその所有に属する自動車を損壊された。
(一) 発生時 昭和四二年一一月三〇日午後一時四五分頃
(二) 発生地 横浜市鶴見区大黒町九ノ一番地先路上
(三) 加害車 事業用貨物自動車(品川う五九二号以下甲車という)
運転者 訴外 原中行(以下原という)
(四) 被害車 自家用普通貨物自動車(横浜八さ三八五号以下乙車という)
運転者 訴外猪股栄夫(以下猪股という)
(五) 態様 猪股は乙車を運転し第一京浜国道から海岸方面に通ずる車歩道の区別ある幅一二米のコンクリート舗装道路を進行し、前記道路右側にある亜細亜石油株式会社構内に入るべく一時停車し、道路上の通行車両確認の上右折の合図をしながら時速約一〇粁位で右折進行し、自動車前部が右会社入口歩道部分にかかつたとき、右側から突然甲車が歩道上に乗り上げて進行してきて乙車の右前部に衝突した。
二、訴外原は被告の従業員であり、被告の営業のため甲車を運転していたものであり、次のような過失があるから、民法七一五条による責任がある。先行車である乙車が右折を開始しているのであるから、徐行し先行車の左側を通過し、先行車の進行を妨げてはならない注意義務があるのに、これを怠り減速もせず、先行車の右前方を通過しようとして無謀にも中央線を超えて進行した過失
三、損害
原告の本件事故による損害は、次のとおりである。
(イ) 乙車前部が破損し、修理代九二、〇五〇円の損害を蒙つた。
(ロ) 右修理期間一〇日間乙車使用不能のため代車として訴外東洋液化ガス運輸有限会社から車両を昭和四二年一二月一日から一〇日まで一日一万円の約定で借り受けた。
四、よつて、被告に対し、原告は一九二、〇五〇円およびこれに対する支払命令送達の日の翌日である昭和四三年五月二四日以後支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(反訴)
一、被告は本訴請求原因第一項(一)ないし(四)の交通事故によりその所有する自動車を破損される等の損害を蒙つた。
二、訴外猪股は原告の従業員であり、原告の業務執行中本件事故を惹起し、訴外猪股に次のとおりの過失があるから、原告は民法七一五条により被告の損害を賠償すべき義務がある。
甲車は直進車両であり、道交法上優先権があるところ、乙車は右に横断しようとし、方向指示器による合図をすることなく直進車の前面を横断した過失。
三、損害
甲車前部が乙車後部に衝突し、その反動で第二次的に訴外三洋包装株式会社、第三次的に芳沢鉛工業株式会社の車両に各々接触し損害を与えた。
(1) 乙車運転助手黒田清吉負傷に対する補償金 三一、四五〇円
(2) 第二次接触により三洋包装会社に支払つた車両修理費 四七、〇〇〇円
(3) 第三次接触の芳沢鉛工業車両修理費 一四二、八二〇円
乙車修理費 一七一、六〇〇円
(4) 右芳沢鉛工業会社より代車分請求未払分 一九六、七二六円
(5) 乙車使用休止中の補償一日五、〇〇〇円二〇日分 一〇〇、〇〇〇円
(6) 乙車及び芳沢鉛工業車修理のため搬入費その他 二〇、〇〇〇円
(1)―(6) 合計七〇九、五九六円
四、よつて被告は原告に対し七〇九、五九六円の支払を求める。
第四、請求原因事実の認否
(本訴について)
一、請求原因第一項(一)ないし(四)は認める。(五)は否認。第二項中訴外原が被告の運転手であること、被告の業務執行中本件事故が発生したことは認めるがその余は否認。
第三項は否認。
(反訴について)
一、反訴請求第一項中事故の発生は認める。
第二項中訴外猪股が原告会社の運転手であり事業執行中本件事故を惹起したことは認める。その余は否認。
第三項中乙車が第二次、第三次接触したことは認める。その余は不知。
第五、証拠関係〔略〕
理由
一、本訴請求原因第一項(一)ないし(四)、第二項の内訴外原は被告の従業員で被告の業務執行中本件事故を惹起したことは当事者間に争いがない。
〔証拠略〕を総合すれば次の事実が認められる。
(一) 本件道路は車道幅員一三米以上の舗装道路でセンターラインの表示があり、制限時速は五〇粁とされていた。事故当時の天候は大雨であつた。
(二) 訴外猪股は乙車を運転し本件事故現場附近にいたり、道路左側に乙車を停車させた後、道路右側の亜細亜石油株式会社構内に入るため、右折の方向指示器を出し徐行しながらセンターライン附近まで斜に横断進行していつたところ、乙車の後方から来た甲車に衝突された。
(三) 訴外原は甲車を運転し、時速約五〇粁位で進行し、甲車の前方で斜に右折して横断している乙車を発見したが、乙車の前方を通過し得ると思い、警音器を鳴らしながら、そのままの速度でセンターラインに沿つて進行したところ、乙車と接触の危険を感じハンドルを右に切つて避けたが及ばず、センターラインのやや右側で接触し、その反動で第二次的に訴外三洋包装株式会社、第三次的に芳沢鉛工業の各車両に接触した
右認定に反する〔証拠略〕は措信し難い。
右認定事実によれば訴外猪股には道路を右折して横断するに際し、後方から来る車両の安全の確認を十分に行なわなかつた過失が認められ、一方訴外原には前方に右折車を発見しながら、その前を通過し得るものと軽信し、減速徐行しなかつた過失が認められ、両者の過失の割合はおおむね訴外猪股六、訴外原四と認める。
二、〔証拠略〕によれば、原告は本件事故により乙車を破損され修理費として九二、〇五〇円、昭和四二年一二月一日から同月一〇日まで乙車修理期間中代車を借りたため一〇〇、〇〇〇円をそれぞれ出捐したことが認められる。これにつき、右認定の訴外猪股の過失を斟酌すれば、七六、八二〇円となる。
三、訴外猪股は原告の従業員であり原告の業務執行中本件事故を起したことは当事者間に争いがなく、訴外猪股に本件事故発生につき過失のあつたこと前認定のとおりである。
〔証拠略〕によれば、被告は、(1)乙車の助手黒田清吉が本件事故により負傷したことに対する治療費、休業補償として三一、四五〇円を支払つたこと、(2)三洋包装株式会社に対し第二次接触によつて生じた同社の車両修理費として四七、〇〇〇円を支払つたこと、(3)乙車の修理費一四二、八二〇円、および第三次接触により訴外芳沢鉛工業株式会社所有車両に破損を生じたため修理費一七一、六〇円を支払つたこと、(4)右芳沢鉛工業株式会社より被告に対し同会社の車両修理中の代車賃料等として一九六、七二六円請求されていることが認められ、以上は本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。被告の、乙車使用休止中の補償、乙車と芳沢鉛工業株式会社車両の運搬費の請求については認めるに足りる証拠はない。被告の損害は(1)ないし(4)の合計五八九、五九六円となるところ、訴外原の過失を斟酌すれば三五三、七五七円となる。
四、よつて、(一)被告は原告に対し七六、八二〇円およびこれに対する支払命令送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四三年五月二四日以降支払ずみにいたるまで民法所定年五分の割合による金員を支払うべき義務があるので、原告の本訴請求は右の限度で正当として認容し、その余は失当として棄却し、(二)原告は被告に対し三五三、七五七円を支払うべき義務があるので、被告の反訴請求は右の限度で正当として認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 荒井真治)